見せ消ちのここが要ぞ獏枕 大山雅由
獏枕は中国の想像上の動物である獏が人の悪夢を食うという逸話から、獏の絵を枕に敷くことを言う。見せ消ちは写本などで字句を訂正する場合、符号を付けたり取り消し線を引くなどして、消した字も読めるようにした消し方のことを言う。要は、獏枕のように悪い夢(=しでかした過ち)を霧消させてしまうのではなく、しっかりと直視して新たな形を作るべし、と言いたいのだろう。
作るという行為そのものを詠むというメタ的な行為は、類想に陥りやすいのでは、そもそもやや説教臭いのではいう思いもよぎったが、創作に対する信念が見せ消ちや獏枕という特徴的な事柄によって現れる点が特異であり、執念であると感じた。夢の中でも、主体は何かを作り続けている。
『獏枕』(角川文化振興財団)より