七夕のふたつの村のしづかなる 「近所」
「しづかなる」という、一見常套の形容が生きるのは上五の「七夕」なる季語による。「七夕や」と切れるのではなく、「七夕の」と続けることにより、この二つの村が七夕に属していると暗示される。二つの村は七夕竹を掲げる地上の村であるが、天の川を挟んで牽牛、織女の姿が浮かぶゆえ、また上五と中七が「の」で繋がるゆえに、二つの村の間にも銀河が流れるように思え、二つの村は天の川の両岸に在って、各々、牽牛、織女の総べる村かとの連想が浮かぶ。されば村の灯は星々の光であるか。そこで「しづかなる」という形容が揺るがなくなる。星々の世界は真空であるがために静寂だからだ。昭和六十二年作。