2014年10月13日月曜日

今日の小川軽舟 7 / 竹岡一郎

腕立伏ではどこにも行けぬ西日かな     「呼鈴」

藤田湘子の「もてあそぶ独楽(こま)からは何も生れぬ」(昭和三十六年作)に通ずるものがある。掲句は、暇をもてあそんでいるわけではない。汗水垂らして鍛えているのだ。それなのにどこにも行けぬところが悲しい。湘子の独楽の句の背後に高度成長期があるなら、掲句の背後には平成不況があるのだ。掲句を、日々仕事に忙殺されるサラリーマンが、果たして自分の仕事はどこかへ向かっているのだろうかと自問する暗喩と捉えるなら切ない。これを若者の焦燥ととらえれば、西日の照りと相俟って、まだ希望は熱くあろうか。平成十九年作。