日盛や少女消えたる水たまり 「手帖」
幼女なら夕暮時に消えるところ、少女は天心炎える日盛に消えるのだ。「水たまり」を日常に隣り合う黄泉の国と取っても良いが、ギラギラと夏の光の反射する水たまりは、むしろ鏡の国と取りたい。ならば、少女はアリスである。「鏡の国のアリス」では、最後にアリスが目覚め、今までのことは夢だったと知る。更に、その夢はアリス自身が見ていたのか、それとも鏡の国の赤の女王が見ていたのか、アリスは自問するのだ。荘子の「胡蝶の夢」である。掲句においては、消えた少女が幻なのか、それとも消えた少女を見ていた作者自身が幻なのか、自問する体であろうか。
平成十五年作。