2014年10月20日月曜日

今日の小川軽舟 12 / 竹岡一郎

秋の蝶磐石に鈴振る如し      「近所」 

秋の蝶であるから、冬蝶ほど弱っていないにせよ、もう静かなのだ。何度か翅をはためかせる、その無音の動きを、作者は音として感じた。それほどまでに静寂は満ちているのである。鈴として感じたのだから、蝶の翅はまだ凛として天を指すのだ。

この句の眼目は、実は蝶でも鈴でもなく、磐石である。蝶が主旋律を表わすなら、磐石はその旋律を支える通奏低音である。神の如く冷たく静かな磐石の上で、蝶の儚い小さな動きは鈴として煌めくのである。平成三年作。