2014年11月22日土曜日

黄金をたたく 4 [巣兆]  / 北川美美


渋柿や鐘もへこめと打つける   巣兆

今年は柿が豊作らしく田舎道にはまさにたわわと柿が実っている。隔年で豊作と凶作を繰り返すのは特に柿に見られる特徴らしい。柿が豊作だと大雪になるという説もある、今年の降雪はどうなることやら。

柿と鐘というのはゴールデンコンビだ。そして、柿・鐘・夕暮れ・鴉の鳴き声、これだけで秋の舞台道具は万全である。

渋柿と甘柿の見分け方を調べてみると、渋柿は先の尖っているような形をしていることが多いらしく、掲句はこの釣鐘型の渋柿と鐘の形を想起しているとも考えられる。

また作者の眼目は<鐘も>の「も」に込められていよう。凹んでほしいのは、俗世の災いと思える。出家している坊主であればすでにその災いからは逃れているはずである。よってこの鐘を打付けているのは作者の巣兆だろう。

なんだ渋柿か!なんてこったと人生の災いに鐘を打っている。本来、鐘打ちは、強く打っては良い音は響かなく、願う心があってこそと思えるが、何やらやけっぱちな風情。しかしだが決して嘆いてはいない。すべての災いを打ち消してくれとばかりに鐘を叩くのである。

掲句は江戸の千住連を組織して、俳諧や俳画に興じた建部巣兆(たけべ・
そうちょう)の作である。『巣兆句集』に「大あたま御慶と来けり初日影」とあり、頭が大きかったらしい。酒飲みで、酒が足りなくなると羽織を脱いで妻に質に入れさせ、酒に変えたという逸話も残っている。典型的な江戸気質とも思える気配が上掲句からも伝わる。ウィットに富んだ洒脱な句が多い。

蓮の根の穴から寒し彼岸過  巣兆
木の下やいかさまこゝは蝉ところ
かへるさに松風きゝぬ花の山
菜の花や小窓の内にかぐや姫

思い切り鐘を打ちスッキリした作者の心情と同時にストンと陽が落ちる夕景が目に浮かぶ。


<『俳諧発句題叢』1820(文政3)年刊所収>