登高の最後は岩に触れてをり 岡田由季
九月九日、重陽の節句。茱萸の実を入れた袋を肘に提げたり、菊酒を飲んだり、菊雛を飾ったり。こう書き並べてみると盛りだくさんなのだが、今では他の四つの節句と比べれば非常に知名度が低く、全国的におこなわれる行事はほぼ皆無と言っていいだろう。「高きに登る」という季語も、もともとこの節句の風習の一つであるのだが、秋のピクニック日和とも言えるいい気候も相俟って、必ずしも単なるその範疇には収まらないのかもしれない。
掲句、「最後」というのは、登りきったところを言うのだろう。高台に登りつめ、そこがゴールとも言わんばかりに存在する岩。触れた途端に、秋の空気が全身を包み込み、目の前に景色が広がる。岩の冷たさもとても心地よいものだろう。
高きに据わる岩、たったそれだけであるが、その触感が実感として喚び覚まされ、そこから視界が一気にひらけるようだ。「登高」が単なるピクニックでなく、秋の季感や、風習として持つ喜ばしい気分を持った言葉として、この句全体を包み込む。さりげない巧さである。
<角川『俳句』2014年11月号(第60回角川俳句賞候補作品『夜の色』 )所収 >