菜の花と合はさるやうに擦れちがふ 鴇田智哉
菜の花の黄色が、パッと目に入ってくる。その黄色を見ながらその方へと歩いていたら、もしかしたら合わさってしまうのではないか、と一瞬思った。次元を越えた不思議な感覚に陥る。しかし、実際には擦れちがっただけであった。
「やうに」の前に思い描いていた菜の花と自分との夢のようなイメージが、「やうに」後では、あっさりと否定され、現実味あるフレーズへと転換されている。菜の花と自分だけではじまった景だったが、やはり、終わりも、菜の花と自分だけだった。
平易な言葉だけで書かれているからだろうか。すこしせつない。
<鴇田智哉句集『凧と円柱』(ふらんす堂2014年) 所収>