クルマイス 月ノ里ヘト イソギユク 芳賀啓
サヤウナラ 電池ガ切レサウ 核ノ冬 打田峨者ん
両句、漢字仮名混じりの独自の一行詩。クルマイス、核の冬に反逆のブルースが漂う。
芳賀啓(はが・ひらく)氏は、古地図研究家であり地図関係の文献を専門とするコアな出版社を営まれている。TV出演もされているのでお顔を知っている方もいるかもしれない。句集とは名乗っていないこの短詩集、全てが漢字片仮名混じりの句切れ一文字アキ。この集が初の個人名での刊行というのだから芳賀啓が短詩から出発していることに驚く。不自由な身体を自由にする器具<クルマイス>が詩を作り出す。<月の里>というのもロマンがある。1949年生まれ。
薬師坂 黒髪一束 タフレキテ 芳賀啓
魚籃坂下 夜鴉啼キヌ
蟷螂ハ 鎌ヲ抱ヘテ 轢死セリ
地形の専門家だけあり坂・地名の句も多いが、戦闘を思わせる句もある。
打田峨者ん(うちだ・がしゃん)氏は、奥付によると、俳諧者、朗詩人、画家(内田峨)、句歴26年、無所属。この句集は第二句集となる。1950年生まれ。
月の道 翼なき背にランドセル 打田峨者ん
あとはただ月の花野を道なりに
ふるさとは月に灼かれし墓一基
下駄にジーンズ、フォークギターを背負い、反逆のブルースを歌った世代のその後の心情が伺える。(チューリップハットをかぶると<みんなの歌>のノッポさん風になる。)もちろん打田峨者ん氏がそのような井手達で日本を放浪していたかは想像である。
両者同世代であり、両集とも自由な作風ながら、句集は春夏秋冬に分類されている。偶然の一致かそれとも同世代だからこその時代の雰囲気か。漢字片仮名混じりの表記は音律を意識すると同時に日本国憲法をも意識する。両者とも憲法に異議を唱えバリケードを突破しようとした世代である。
後ろ髪を引かれつつ故郷を後にした50年世代へ敬意を込めて二句掲出。 両句に時代の波を感じる。
※季語: 両句とも秋から冬の気配だが無季
※核の冬:核戦争が起った場合,核爆発による破壊や火災から生ずる大量の噴煙が太陽光線をさえぎり,気温が大幅に低下してきびしい冬の現象が生起するとの仮説。 1983年,世界の科学者などによる「核戦争後の地球-核戦争の長期的,世界的,生物学的影響に関する会議」が開かれた際に発表され,関心を呼んだ。(ブリタニカ国際大百科事典)
<芳賀啓短詩集 (『身體地図』深夜叢書2000年)所収>
<打田峨者ん句集 (『光速樹』書肆山田2014年)所収>