2014年11月6日木曜日

きょうのクロイワ 2 [小島健] / 黒岩徳将



秋風を掠めとつたる牛の舌  小島健


 眼目は中七の「掠めとつたる」。景としては秋の屋外で牛が舌を出す、ただそれだけ。明瞭この上ない。しかし、「掠めとる」は本来悪いニュアンスで使われる。ぼんやりしているように見えて、牛の賢しさを言っているようにも解釈できる。

 また、「掠めとる」という動詞にはスピードを感じるが、中七を丸ごと使われるとそうでもない。まさか、牛にとっては「掠めとる」だが、人間の立場からだと遅いということだろうか?

 そもそも、掠めとったからなんだというのだろうか。掠めとった先に、秋風は牛の体内におさめられたのだと読みたい。目に見えぬ秋風に喪失感がだめ押しされる。

(『小島健句集』 ふらんす堂2011年)