秋風を掠めとつたる牛の舌 小島健
眼目は中七の「掠めとつたる」。景としては秋の屋外で牛が舌を出す、ただそれだけ。明瞭この上ない。しかし、「掠めとる」は本来悪いニュアンスで使われる。ぼんやりしているように見えて、牛の賢しさを言っているようにも解釈できる。
また、「掠めとる」という動詞にはスピードを感じるが、中七を丸ごと使われるとそうでもない。まさか、牛にとっては「掠めとる」だが、人間の立場からだと遅いということだろうか?
そもそも、掠めとったからなんだというのだろうか。掠めとった先に、秋風は牛の体内におさめられたのだと読みたい。目に見えぬ秋風に喪失感がだめ押しされる。
(『小島健句集』 ふらんす堂2011年)