破裂するあかるい花火われわれの約束の地が向かうにあった 町川匙
様々な国籍の子どもたちがいた。
パレスティーン、と少年答えその眼伏せたり葡萄のように濡れいき 齋藤芳生
未来なんて花火のようだったね、とおく眺めているときは輝かしくて眩しいけれど一瞬で過ぎさってしまえば闇に沈んだ、かすかな残響。ふたり手をとって走り出しても走るたびに遠ざかる、永遠に近づけない気がして、ふと見上げれば軋みながら回転する観覧車。
聞いてはいけなかった、とはっとしたときには少年の眼は閉じられていて、瞳からなにも読み取らないで欲しい、という願望の代わりに眼は泉になる、砂に囲まれた異国での乾いた感情の日々に、潰えてしまいそうな小ささな濡れたひと房の持ち重りする葡萄。思いがけなく手渡された事実。
砂嵐のなかに混じる硝煙のにおい、約束の地を取り戻すにはときに武器を必要として、いつかその少年も武器をとる日がくるのかと、故郷にいながら故郷を奪われた思いと綯交ぜに、胸の花火のように、ずっとあとになっても、遠く極東の地のわれわれを苛む。
ねむりても旅の花火の胸にひらく 大野林火
(「中東短歌 3」所収)
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