2014年11月28日金曜日

黄金をたたく 5 [攝津幸彦]  / 北川美美


もしもしにもしもし申す雪月夜  摂津幸彦


攝津幸彦の第一句集『姉にアネモネ』(1973年青銅社)を、それが句集名、あるいは俳句と知らず言葉として知っていた。恐らく、兄が押入に隠し持っていた男性誌の書籍紹介に<姉にアネモネ>を見た、とおぼろげな記憶がある。母音とイントネーションが同じ語、母音が同じ語、同音異義語などを当てはめる洒落は雑俳の一部だ。雑俳は70年代のカウンターカルチャーにより、例えば大橋巨泉の「はっぱふみふみ」のようにテレビ・ラジオの電波に乗って人々に広く愛誦された。

<もしもしにもしもし申す>は<姉にアネモネ>同様、言葉遊びの洒落がある。<もしもし>はもちろん、電話の呼びかけの「もしもし」から来ているし、その「もしもし」は「申す」から転じている。受話器から相手が「もしもし」とまず発声し、自分も「もしもし」と申し上げた、それは雪のある月夜だった、という読みが一番落ち着くだろう。周囲の雪はノイズキャンセラーの役目を果たし、小さな音もクリアになる。電話の相手が恋人であっても間違い電話であっても、人と繋がることにドラマがあり、そしてストーリーが生まれる。

(『鹿々集』1996年ふらんす堂所収)




※The Penguin Cafe OrchestraTelephone and Rubber Band