2018年8月31日金曜日

DAZZLEHAIKU26[花谷 清] 渡邉美保


  朝かと問われ夜と答える水中花    花谷 清

不思議な一句だと思う。 
水中花の飾られた部屋に、朝かと問う人がいる。夜だと答える人がいる。どういう場面設定を想起するかは読者にゆだねられている。
或いは…と別の解釈もできそうだ。
真夜中にふと眼覚め、朝かと思う刹那がある。「いや、まだ夜だ」と自分が気付くより先に水中花がそう答えた。と読むことはできないだろうか。問いはそのまま答えとなる。
色うつくしい花の姿にひらいて、コップの水の中に凝としづまっている水中花は、華やぎと哀れさとを合わせ持つ人工の花。いつだって「夜」と答えそうな気がする。水中花に朝は来るのだろうか。
夜と朝のあわいの短い会話から、或いは、自問自答から、人間のこころもとなさが感じられる。水中花という幻想の花もまた、こころもとなく、両者をとおして、生と死について考えさせられる。

〈句集『球殻』(2018年/ふらんす堂)所収〉

DAZZLEHAIKU25[友岡子郷] 渡邉美保

  舟音を追うて舟音明易し    友岡子郷

眠れぬ夜を過ごしている耳に、舟音が届く。その舟音に続く舟音は、夜が明けていくのを気付かせる。舟は夜明けとともに沖へ向っていくのだろう。夏の夜明けは早い。次第に明るくなる空の色。新しい一日のはじまり。
穏やかに一定のリズムで進んでゆく舟音は、作者の心を引込むような親しい音にちがいない。潮風、波の揺れ、海の広さが目に浮かぶ。
「舟音を追うて舟音」のリズムの心地よさ、一句の力強さ。
夏暁の清々しさの中、舟音だけが聴こえる、シンプルな句の世界。舟音は読者の耳に届き、読者の心を引込んでいく。

  朝の舟梨のはなびらのせゆきぬ

  足もとに舟のあつまる涼夜かな

  夕風は舟の七夕笹をこえ


同句集中の舟の句はとても魅力的だ。

〈句集『葉風夕風』(2000年/ふらんす堂)所収〉