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2025年6月9日月曜日

DAZZLEHAIKU82[ふけとしこ]  渡邉美保

   夕顔別当薄闇に翅使ふ     ふけとしこ

 

 「夕顔別当」という美しい名前にふと立ち止まった。夕顔別当とはどういう役職?どういう人物?源氏物語の「夕顔」と関係あるの?などと素朴な疑問。その夕顔別当が薄闇に翅を使うというのは一体・・・。

 広辞苑によると「夕顔別当」は蝦殻天蛾(エビガラスズメ)の異称とある。夏の季語で、歳時記ではエビガラスズメのほかに背条天蛾(セスジスズメ)のこともいうとある。茶褐色や灰色、不気味な模様をもつ大きな蛾(翅の開帳9~10センチ)で、夜行性なので、夜咲く夕顔に蜜を求めて飛んでくる蛾とのこと。人に疎まれることの多い蛾であるが、優雅な命名である。

 夏の夕暮れ、薄闇に白く浮かぶ夕顔の花、そこへどこからともなく飛んできて花の蜜を吸う夕顔別当。長い口吻を持ち、翅を素早く羽ばたかせることで空中に静止することができる。花には止まらず空中に漂いながら夕顔の蜜を吸う姿はまさしく「翅使ふ」、高速の翅使いであろう。

 掲句には描かれていないが、薄闇にひっそりと咲く夕顔の花があり、夕顔別当がいる。その情景にある陰翳と寂寥。どこか幽玄の世界を思わせる。夕顔別当は、薄倖な夕顔の前に現れる貴人の化身かも知れない。

〈『香天』79号(2025年/香天の会所収)〉  


2019年8月23日金曜日

DAZZLEHAIKU37[ふけとしこ]  渡邉美保


ごきぶりの髭振る夜も明けにけり     ふけとしこ

ごきぶりを見ると、反射的に臨戦態勢をとってしまうので、(たいていは逃げられてしまうのだが)「髭振る」ことに注目したことは、ほぼない。
確かにごきぶりには一対の髭がある。その髭は嗅覚、触覚などをつかさどり、食物を探したり、外敵を防ぐ用をするという。
 このごきぶりは、髭を振り振り何を探しているのだろうか。それをじっと見ている作者の視線。ここでは、ごきぶりは忌み嫌う対象ではないようだ。

「夜も明けにけり」の「も」は、「ごきぶりの夜も」「私の夜も」の「も」ではないかと思う。
「明けにけり」(明けてしまったよ)にどことなく感じられるやるせなさや倦怠感。短夜と言われる夏の夜。作者にもごきぶりにも夜はまだ続いて欲しかったのではないだろうか。同句集中

〈ごきぶりに子がうまれるぞこんな夜は〉の句も。

〈句集『眠たい羊』(2019年/ふらんす堂)所収〉