2022年11月18日金曜日

DAZZLEHAIKU66[松王かをり]  渡邉美保

 秋の浜海は巻かれて貝の中   松王かをり


 夏の間、海水浴などで賑わった浜辺も、秋風が吹くころになると、人影も少なくなり、寂しい浜辺になる。目の前に広がる砂浜の少し遠くに、澄んで爽やかな海が光っている。引き潮の刻である。満ち潮の刻の水量豊かな海は、「巻かれて貝の中」という把握が愉快だ。

 野球場で雨が降った時にグランドにかぶせる大きな銀色のシートのことが、ふと浮かんだ。雨が上がり、ゲーム再開という時、銀色のシートは端から大急ぎで巻かれていく。シートは、銀色に波打ち、表面についた雨の雫を飛ばしながらくるくると巻かれていく。あの光景を思い出す。

 巻かれた海は、なんと貝の中に入っているという。貝に吸い込まれる海と、海を吸い込む貝。時空を超えた魔法のような展開。貝の中に入った海は、貝の中で徐々に膨らみ、広がっていくだろう。貝の中にもう一つの世界が生まれ、新たな海となる。そして世界は反転する。

〈『現代俳句』11月号(2022年/現代俳句協会)所収〉