ラベル 友岡子郷 の投稿を表示しています。 すべての投稿を表示
ラベル 友岡子郷 の投稿を表示しています。 すべての投稿を表示

2018年8月31日金曜日

DAZZLEHAIKU25[友岡子郷] 渡邉美保

  舟音を追うて舟音明易し    友岡子郷

眠れぬ夜を過ごしている耳に、舟音が届く。その舟音に続く舟音は、夜が明けていくのを気付かせる。舟は夜明けとともに沖へ向っていくのだろう。夏の夜明けは早い。次第に明るくなる空の色。新しい一日のはじまり。
穏やかに一定のリズムで進んでゆく舟音は、作者の心を引込むような親しい音にちがいない。潮風、波の揺れ、海の広さが目に浮かぶ。
「舟音を追うて舟音」のリズムの心地よさ、一句の力強さ。
夏暁の清々しさの中、舟音だけが聴こえる、シンプルな句の世界。舟音は読者の耳に届き、読者の心を引込んでいく。

  朝の舟梨のはなびらのせゆきぬ

  足もとに舟のあつまる涼夜かな

  夕風は舟の七夕笹をこえ


同句集中の舟の句はとても魅力的だ。

〈句集『葉風夕風』(2000年/ふらんす堂)所収〉

2017年11月30日木曜日

DAZZLEHAIKU15[友岡子郷]渡邉美保

   掛け大根より白波の船現るる   友岡子郷

掛け大根の白と白波の白。
一句の中では白い色のみが述べられているが、そこには澄み渡る青い空、遠く広がる青い海原、青を背景にして、白の際立つ光景が目に浮かぶ。冬の冷たい空気の中で、青と白の対比がとても美しく、清々しい。
最近はあまり見られなくなった掛け大根。高々と干された大根の真っ白な列が並ぶ風景は、郷愁を誘う。掛け大根は、寒風にさらすほど甘味が増し、美味しい沢庵ができるという。沢庵を漬けるということが珍しくなった現在、掛け大根の風景は、失われゆく生活の実景の一つだと思う。
掛け大根に視界が遮られているとき、白波を立てて進んでくる船は突如、掛け大根の間から現れる。いつもとは違う光景がユーモラスである。船の音、波の音も聞こえてくる。


〈句集『海の音』朔出版2017年所収〉

2017年11月14日火曜日

DAZZLEHAIKU14[友岡子郷]渡邉美保



   文手渡すやうに寄せくる小春波   友岡子郷


冬に入ったとはいえ、春のように暖かい小春日和。うららかな空、うららかな日ざしのもと、海岸にいると、波は一定の間隔を置きながら、ゆったりと寄せてはかえす。次から次へと畳みかけてくる波の様子が目に浮かぶ。その単調で、静かな波音も聞こえてきそうだ。
波が寄せてくるさまはまさしく「文手渡すやうに」なのだ。それは巻紙にしたためられた長い長い文かもしれない。
本句集のあとがきに「海鳴り、潮風、舟の音…、今の私の生活圏にある」と記されている作者ならではの繊細な感懐ではないだろうか。
海のひろさ、水平線のはるかさ、日頃の思いがすべて含まれているような気がする。
寒さに向う前のほっとするような暖かいひととき、「文手渡すやうに」と形容される波がなんともやさしく、さびしい。


〈句集『海の音』朔出版2117年所収〉