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2024年9月2日月曜日

DAZZLEHAIKU78[広渡敬雄] 渡邉美保

 かさぶたのいつしか剥がれ夜の秋   広渡敬雄    


 「かさぶた」についての情報はなにも語られていないのだけれど、かさぶたが出来、それが乾ききって剥がれるまでの鬱陶しさはよくわかる。かさぶたは周囲から徐々に乾いていくと、つい、乾いた部分をはがしたくなる。かさぶたを少しずつ剥がしていくのは、スリル感を伴う快感でもある。「いつしか剥がれ」てしまったら、ちょっと惜しいような気がしないでもない。などと埒もないことを思う。

 仕事が一段落し、ほっと一息つく夏の夜。涼風が肌に心地よい。

 そういえば気になっていたかさぶたは、と見るといつしか剥がれている。かさぶたが剥がれ、傷が癒えたことは喜ばしいことだと思われるが、吹く風に秋の気配が漂う「夜の秋」。なんとなく淋しさが感じられる一句である。

 はかなく消えた「かさぶた」のかすかな喪失感と、去りゆく季節への愛惜とが、「夜の秋」のひんやりとした空気に重なる。

〈句集『風紋』(2024年/角川文化振興財団所収)〉


2017年2月12日日曜日

広渡敬雄句集『間取図』ー感性と観察眼に裏打ちされた描写力ー    豊里友行 




郭公や雲を離るる小海線



 なんか好きなリズムで観察眼にも流れる威風堂々とした格調高さに舌を巻く。

小海線(こうみせん)は、山梨県北杜市の小淵沢駅から長野県小諸市の小諸駅までを結ぶ東日本旅客鉄道(JR東日本)の鉄道路線(地方交通線)。郭公(かっこう)のドラミングが木魂する南アルプスを背に雲を離れていくというリズムも心地よく走る小海線が、眼に浮かぶようです。


 裏返りつつ沢蟹の遡る

懸命に生きている生き物たちの命の描写がドラマチックでありながら感動をダイレクトに伝えてくれる。

観察眼の効いた俳句には、まさに威風堂々とした格調高さが立ち現れる。

共鳴句を頂きます。


 冬すみれ夕暮れ畳むやうに来て


夕暮れを「畳む」という感性に脱帽。


 蛇ゆきし草ゆつくりと立ち上がり 草を擦りつつ上りゆく鯉幟 蛍烏賊闇を震はせ上がりくる


蛇のゆっくりと這う様の描写力が凄い。鯉幟を上げる描写力も。蛍烏賊が「闇を震はせ」上がりくるという描写力。


これら感性と観察眼に裏打ちされた秀句がこの句集の醍醐味。



 糸瓜棚より子規が見え律が見え おまへだつたのか狐の剃刀は 木枯し一号何となく父のこと 冥王星ほどの明るさ梟の眼 間取図に手書きの出窓夏の山 角よりも尻たかだかと鹿去りぬ 兜虫ふるさとすでに詩のごとし




2014年11月12日水曜日

きょうのクロイワ 3 [広渡敬雄]/ 黒岩徳将



馬好きで入りし高校草の花    広渡敬雄


農業高校だろうか。「し」なので、回想として読んでもいいし、作中主体が高校生と考えてもよい。草の花の近くに、馬の細くて強い脚がうつる。作中主体と馬と草の花との三点倒立。△の頂上は、草の花だ。作中主体が馬術部に入らないと私はきっと怒るだろう。馬にも、馬が好きな人にも会っていただきたい。余談だが、荒川弘の人気漫画「銀の匙」が思い浮かんだ。

(『ライカ』 ふらんす堂2009年)