電球を振つてさりさり春の雪 大島雄作
電球をくるくる左に回し、ソケットから外す。外した電球を耳元で振る。替えの電球をくるくる右に回して取り付ける。よくある光景だった。
外した電球を耳元で振ると震えるようなかそけき音がした。白熱電球の中のフィラメントが切れている証である。球形の薄いガラスの中で、か細い金属の線が切れて動く音は実に繊細だ。
掲句から、久しく忘れていた、切れた電球の音の「記憶」が甦る。まさしく「さりさり」と懐かしい音である。
折からの春の雪。淡く、溶けやすい、降ってはすぐに消えてゆく春の雪と、無機質の電球、しかもその音との取り合わせが、かくもノスタルジーをかきたててくれるとは。
電球そのものがいつしか消えてゆき、忘れられゆく運命にあるからなのだろうか。
我が家でも白熱電球はLED電球に変わった。寿命が40,000時間とかで、白熱電球の1000時間をはるかに凌駕している。交換の手間は減り、交換時に振っても無音のままだ。あの音はもう聞こえない。
〈句集『一滴』(2019年/青磁社所収〉