薄暮、微雨、而して薔薇しろきかな 久保田万太郎
庭の白薔薇が蕾をつけ始めた。蕾が成長し、花が咲き始めると、あたりには徐々に薔薇の香りが漂う。四分咲きくらいの状態がずっと続けばよいのに、と思うのだが、日差しが強いと、白薔薇はあっという間に開ききり、花びらは崩れるように散ってしまう。或いは、萎れて茶色く錆色になってしまう。花を楽しむ期間は短い。白い薔薇には、薄日の差すくらいがちょうどいい、と思っていたら、掲句に出会った。
〈薄暮・はくぼ〉〈微雨・びう〉〈而して・しかして〉と続く漢文調に、一見漢詩の一節のような印象を持つが、〈薔薇・そうびしろきかな〉で俳句に着地。斬新な句の形だと思う。
薄暮、微雨、この二語の名詞が並ぶだけで、読者はたちまちイメージを膨らます。舞台装置が出来上がる。而して「薔薇しろきかな」なのである。
ここから、どんなドラマが始まるのだろうか。
〈『久保田万太郎俳句集』2021年/岩波文庫所収〉