羽ばたくも潜るも一羽風光る 小林成子
いつも通る散歩コースに小さな川がある。きれいに整備された川ではないので、岸辺には破けたビニール袋やごみ類が溜まっていたりする。川底も決してきれいとは言えない状態なのだけれど、川には、青鷺や白鷺がときおり飛んできて漁をする。いつも見るのは、つがいのカルガモで、仲良く水脈を引いている。
秋ごろからは、二羽の鷭を見かけるようになった。潜ったり、岸辺の草を啄んだりしながら、小さな川を行き来している。いつも二羽は一緒にいた。ところが最近一羽が姿を見せなくなり、鷭は一羽だけで行動。水輪の中で、首をひょくひょく動かしながら川を進む様子はどことなく寂しそう。何故一羽になったのか気にかかっている。
掲句、何の鳥とも書かれていないが、仲間の鴨が北国へ帰った後に取り残された「残る鴨」かもしれない。早春の風はまだ冷たいが、光はたっぷり降りそそぎ、辺りの風景を明るくしている。水面が輝きを増すさまはまさしく「風光る」である。その明るさの中で羽ばたき、潜り、光をまき散らす一羽の姿。「一羽」が静寂と、寂寥を際立たせている。
〈句集『わだち』(2022年/ふらんす堂)所収〉