2015年2月2日月曜日

今日の安井浩司 1 / 竹岡一郎


鴉裂いて火の源(みなもと)を摑み取る    安井浩司

鴉は八咫烏であろうか。或いは、楚辞に記される「日輪に潜む三本脚の鴉(火烏)」であろうか。太陽の精気が凝り集まったものと言われ、その足の数が三本なのは、陽の気はその数が奇数であるからという。掲句は、太陽を裂いているのである。火の源とは、陽の源である。「高浜虚子私論」において、安井は虚子の巨人願望について触れている。「一人の夢想家が、俳句形式を通してのみ自立しようとするその渇仰の対象であり、極小が、また、極大であることの大いなる意図を仮託しようとしていたのではなかろうか。」掲句も、巨人を詠った句なのだ。


『四大にあらず』(増補安井浩司全句集661頁)