耳目又惑はむ梅雨に入りにけり 相生垣瓜人
雨粒の音に合わせて今年もやってきた…と思わせる季節の到来だが、ここで使われる「耳目」は、梅雨と配合されることによって、「複数人の注目」という意味合いよりも、むしろ体の部位としての形状を思わせる。
耳のぐるぐるした模様めいたかたち、目の人に訴えかけるメッセージ性。とかく人間・動物は不思議なパーツを与えられたものである。
『明治草』より
-BLOG俳句新空間‐編集による日替詩歌鑑賞
今までの執筆者:竹岡一郎・仮屋賢一・青山茂根・黒岩徳将・今泉礼奈・佐藤りえ・北川美美・依光陽子・大塚凱・宮﨑莉々香・柳本々々・渡邉美保
耳目又惑はむ梅雨に入りにけり 相生垣瓜人
初蟬や疲れて街をゆきしとき 篠田悌二郎
暁やうまれて蟬のうすみどり
風立てば鳴くさみしさよ秋の蟬
埼玉や桑すいすいと春の雨
凌霄の花のふまるる祭かな
波更けて心もとなく涼しけれ
人今はむらさきふかく草を干す
はたはたのをりをり飛べる野のひかり
ひかりなく白き日はあり蘆を刈る
トマト挘ぐ手を濡らしたりひた濡らす
少女みな軍艦にされ姫始 関悦史
和を以てなお淫らなるさくらかな 高橋修宏
湾岸に倉庫のごつた春霞 辻本敬之
負鶏のぬけがらのなほ闘へり 「近所」
春の灯や一つ上向く箪笥鐶 富安風生
春雨や松の中なる松の苗
蜘蛛の子のみな足もちて散りにけり
春泥に傾く芝居幟かな
寒菊の霜を払つて剪りにけり
羽子板や母が贔負の歌右衛門
大風の中の鶯聞こえをり
一もとの姥子の宿の遅桜
美しき砂をこぼしぬ防風籠
石階の滝の如しや百千鳥
通りたることある蓮を見に来たり
みちのくの伊達の郡の春田かな
よろこべばしきりに落つる木の実かな
百物語つきて鏡に顔あまた 柿本多映
野火走る絵巻解きのべゆくごとく 「手帖」