野火走る絵巻解きのべゆくごとく 「手帖」
野火というものは透明でどこまで伸びたか一見して分らぬものである。草が黒くなってゆくので漸くそれとわかる。掲句では、どんな絵巻かについては言及していないが、平治物語絵巻のような戦記物の絵巻ではないかとの連想が働く。反乱が広がる事の喩に「燎原の火のごとく」とあるように、野火は戦を思わせるからである。
絵巻と限定している処から、あくまでも絵としての戦であり、流麗にして優雅な二次元の戦火であろう。「解きのべゆく」の措辞からは畳の上に絵巻物を拡げていって俯瞰する如く、高い位置から野火を見下ろしている印象を受ける。即ち、この措辞によって作者の視点を定めているのである。平成十八年。