2014年12月2日火曜日

身体をよむ1 [桂信子] 今泉礼奈


ひとごゑのなかのひと日の風邪ごこち   桂信子

リフレインの気持ちよさに反して、何ともすっきりしない風邪のときの気分を詠んだ句。

夜、今日の一日をふり返る。電車に乗ったこと、授業を受けたこと、友だちと話したこと。その内容に意識が奪われがちだが、確かに。一日は人の声で溢れている。何気ない一日をメタ的に捉えている。
しかし、ここでは、その把握は、ちょっとした風邪によるものだという。内容まで思い出す気分ではない。音だけを思い出しているのだ、と。

と、ここまで書いてみて思ったが、これだと重症のようだ。「風邪ごこち」なのだから、そこまでではない、鼻づまり程度だろう。
そんなときでもやはり、人の声は嫌なものではない。

(『月光抄』1949年所収)