2015年3月2日月曜日

今日の小川軽舟 31 / 竹岡一郎



障子開いてこゑとこどもととび出づる   「手帖」
描かれてはいないが、子供は昭和の着物を着ているような気がする。障子が貼り立ての真白さに暖かく感じられるのは、子供の瑞々しさが全体から弾けるからだ。正月のようにも思えるのは、庶民的な慎ましい目出度さに満ちているからだ。慎ましいと言ったが、親としては子供が元気である事ほどの有難さはない。子供は遊びに行くのか、誰かを迎えに出たのか。「こゑとこどもと」と並列したのが巧みである。先ず声が、続いて子供が飛び出すのだ。その巧みさを感じさせないほど明るい躍動感に満ち、しかも懐かしい。その懐かしさは、実際にそんな光景に身を置いたことの無い者にも感じられる。、掲句は、実体験の懐かしさでもあろうが、むしろ古き良き日本に共通する空気の懐かしさなのだ。平成十三年作。