絵本すずしピーターラビツトずるしずるし 辻桃子
子供が寝つくまでの間に絵本を読み聞かせているようにも、夏の夜更けに大人がひとり絵本をめくっているようにも見える景。体感「すずし」が「絵本」にかかっていて、その措辞が実際読んでいて涼しい。
「すずし」と結句の「ずるし」が対応しているのも、ワザが目に見えながらも涼しく処理されている印象を受ける。
ピーターラビットといえば、擬人化されつつも控えめなデフォルメのキャラクターであることからか、金融機関のイメージキャラクターとしても採用されるなどしているようだ。
日本では福音館書店版の石井桃子訳が最もひろく読まれているのではないだろうか。
CFなどで見られる、ピーターが後足で立ち上がりレタスを食べる姿は可愛らしいものだが、作品の中での彼はやんちゃで、食べているのは主にお隣のマクレガーさん(人間)の畑から盗んだ野菜であり、トレードマークの青い上着は、野菜窃盗の際に置き忘れ、泥棒よけの案山子に利用されるなどの憂き目にもあっている。
水彩の透明感が活かされた画風で、愛らしいウサギたちが描かれているが、アナウサギである彼らは巣穴の中で生活していて、「家」として巣穴の様子も描写されている。しかしそこでは、ピーター兄弟の母ウサギが「鍋を火にかけて」調理をしているのだ。
この、現実とおとぎ話がミクスチャーされた感覚がなんともいえずおもしろい。
ピーターの可愛さへの嫉妬が「ずるい」と言わせているのか、絵本のなかのピーターの行動を「ずるい」と思っているのか、「ずるし」の理由は不明だが、この一語が「ピーターうさぎ」に対してのひとつの正しい見解であるようにも感ぜられる。
〈『桃童子』蝸牛社・1997〉