予約した鼓動と走る春一番 古庄薫
「予約」という言葉が、いちばん不思議。ふつうの生活だったら、「予約」は現実的で堅実な行動。でも、そんな卑近なイメージ、この作品中の「予約」には漂っていないんだよなあ。「予約」って言葉、他に何で見たっけな。
そうだ、「予約語」なんて言葉があった。プログラムを書くとき、変数の名前だったり、関数の名前だったり、何かと自分で定義して使うことが多い。あとで見て分かりやすいように、だいたい自由に名付けることができるけれども、使えない名前もある。あらかじめそのプログラム言語で意味が決まっている言葉だったり、紛らわしいから使えないようにしている言葉だったり。それが、「予約語」。プログラム言語に、その語の使用を予約されているようなイメージ。
なるほど、こんなイメージなのかもしれない。「予約」には、「自由に扱えない」というイメージもある。あらかじめ、プログラムされている、そのとおりにしか使えない。このくらいのイメージが、この作品にはぴったりだ。ただ、それは必ずしもネガティヴなイメージではない。「予約」という一種の制約により、却って広がる可能性の世界。
「予約」なんて言葉にこんな世界へ誘われるなんて、どんな言葉も侮れないな、と思わせられる。『春を探して』二十句中の一句。
《出典:『乙女ひととせ ver.2013』(同志社女子大学表象文化学部日本語日本文学科)》